山田太一グラフィティ(59)

1995年

[山田]

ことわっておくが

マルキシズム共産党

前で悩んでいるのではない。

ここで自分をごまかしたら

文学もなにもない、と思っている。

とにかく寂しい。

マルキシズム決定論

いきなり身をまかしている

ような奴等は総じて元気だ。

しかしていかにも安っぽい。

あの安っぽさに

僕は慣れないだろう。

昨夜はその恋心がしだいに本物になってきたことを白状した。

 

 

[寺山]

手紙ありがとう。

君の変貌ぶりは

僕を驚かすのに充分だった。

変貌がそのまま成長だとは

思わないが

君の勉強ぶりは

僕をはるかにしのいでいた。

しかしふいに僕は

何か途方もないところにいる

君を感じることがある。

君はAさんが目をくらまされている、と言い

引き出してやる、と言い

ながら

いつのまにかその逆に

引き込まれそうなのだ。

 

窓を開けると蛾が入ってきた。

よく見ると濡れていない。

僕は雨の中を濡れないで飛ぶ事のできる蛾をしばらく見ていた。